あなたに捧ぐ潮風のうた
里に帰ることを許される短い期間限定ではあるが、そんな小宰相も心が安らぐときはある。
夜の闇に都が沈み、誰もが寝静まる頃、彼は訪れてくれた。
訪問の頻度は以前より減ったが、彼の仕事が忙しいことや、お互いの立場に気を遣わねばならない年齢に達したことを考えると、十分であった。
小宰相は義則の姿を認識するやいなや、一日の疲れも忘れて表情を綻ばせ、外で佇む義則をそっと小声で部屋に招き入れた。
「そのように控えていらっしゃらないで、近くまでおいで下さい」
「失礼いたします」
一礼した義則は小宰相のいる御簾の近くまで寄って座った。彼は自分の膝を見るように顔を俯けていた。
影が差している彼の表情を見るたびに、自分たちは姫と家人という、身分の違いを実感させられる。