あなたに捧ぐ潮風のうた
「姫様は、今日はどのようにお過ごしになられましたか」
「ええ、今日は書物を読んでいました。後は、 、侍女たちとお話して過ごしたわ」
「そうですか」
一瞬、義則が優しい微笑みを浮かべた。
小宰相の鼓動を早めさせるのに十分な笑みだった。
彼も今は成長し、背丈もいくらか伸びた。
以前は涼やかだった声も、声変わりを経て柔らかな低い声になった。
初対面に見た気の強さはすっかりと息を潜めている。
──少なくとも、小宰相の前では。
日頃の修行で鍛えられている一方、細身であるために、その振る舞いはしなやかで優雅だ。
義則は屋敷の侍女、さらには男からも絶大な人気を誇っているが、以前何気なくそれをからかった際「存じませんが」ととぼけた顔をしていた。
それを聞いた小宰相はほっとした記憶がある。
小宰相はいつしか彼に淡い気持ちを抱くようになっていた。
恋と言えるのかすら分からない、幼き頃から胸で温めてきたささやかな想いである。
「今、浄土の教えに興味があるのです」
「姫様は熱心に学んでいらっしゃいますね」
「ええ。だって、知らないことを知ることが、とても楽しいのです。上西門院様に感化されてしまったのよ」