あなたに捧ぐ潮風のうた
自分に向けられている父の笑みを久々に感じ、孝子は胸が熱くなる。
「姫様、ご安心下さい。わたくしが責任を持って、姫様を立派な女子(おなご)にして差し上げます」
自信に満ちた表情で言う呉葉に、父は機嫌良さそうに肩を揺らして笑う。久々に触れた家族の温もりは、やはり眩しかった。
「呉葉もこう申しておる。お前にはお前の良いところがあるはずだ。それに……後は分かるだろう」
父はそう言って意味ありげに微笑んだ。その意味を理解できない孝子ではない。
上西門院の女房。それはいくつかの意味において、とても魅力的で素晴らしい。
祖父の世代までは栄華を誇っていた、我らが藤原摂関家の傍流。
父は刑部卿という地位では決して満足しない。それ以上の栄華を夢見ており、その糸口を見目麗しい娘に託しているのだ。