あなたに捧ぐ潮風のうた
その瞳が小宰相の目を迷いなく真っ直ぐに見つめた。
「よく寺では合奏をしていました。だから、いつか、合奏しましょう。わたしは笛、貴女は琵琶で」
「……ええ。それならば、わたくしはもっと琵琶を練習しなくては」
「是非そうなさってください」
義則が珍しく口の端を子供のように緩めたところで、小宰相は自分がからかわれたことを悟り、白粉の上からでも分かるほどに頬を赤くした。
ほんの冗談だろうが、管弦の才に恵まれている人に言われ、恥ずかしいやら悲しいやらで、しまいには怒りが湧いてきた。
「……どうせ、わたくしの管弦の才は貴方とは違って凡庸ですわ……」
「ああ、ほんの戯れのつもりでしたが……どうか気に障ったのならお許しを。わたしは貴女の奏でる素直な琵琶が一番好きです。ですから……そのままの貴女でいらっしゃってください」
ふっと微笑まれ、瞬く間に怒りが萎んでしまった。
小宰相の胸には代わりに温かな気持ちが生まれた。
二人は、呉葉を同じ母として慕い、幼いときから共に成長してきた。
──その兄妹のような絆は、今でもこうして繋がっている。