あなたに捧ぐ潮風のうた
出仕せず部屋に籠りっきりの姫よりは動けると思っていたが、自分の認識は甘かったようだ。
自分も共として連れて行ってくれ、と言っていた呉葉を思い出す。そして、連れて来なくてよかった、と思った。
もう若くはない彼女には厳しい道のりだろうという判断のためだ。
途中、参道を降りてくる多くの参拝者とすれ違った。市女笠姿の女人も数多くいた。
この寺の僧が徳のある人であるという評判はどうやら本物らしい。
しばらくすると建物が見えた。寺というよりも草庵のようで、さほど大層なものではない。小屋ほどの大きさで、とても宮中の評判を集めるところには見えない。
「ようこそお越しくださいました、お若い方々」
右前方の方から声が掛けられた。
優しい声音をした男の声である。
微笑みを浮かべて歩み寄ってきたのは、一人の坊主だ。
小宰相は『お若い方々』という言葉に眉を寄せた。確かに皆まだ歳若いが、それは目の前の坊主もまだ十分に若いではないか。