あなたに捧ぐ潮風のうた
彼は小宰相たちをもてなし、語り掛けるような穏やかな口ぶりで法話を始めた。
小宰相たちに分かりやすく、仏の教えを順を追って解説してくれる。
小宰相はそれを聞きながら、自分の知識と照らし合わせ、整理していた。
「──お釈迦さまの正しい教えが伝わっていた良き時代は過ぎ去ってしまいました。形だけの教えが伝わり、悟りを開くものがいない時代を経て、世も人も崩れてしまった今の時代が“末法”(まっぽう)です」
今まで微笑みながら話していた法然は、悲しみに満ちた表情をした。
「末法が始まったのは永承七年でした。この年に、かの藤原頼通さまが平等院を建設するなど、末法の時代に救いを求める方が多くいらっしゃいました。しかし、やはり天災や争いばかりが起こってしまいました」
確かに、と小宰相は頷いた。
永承七年以降、貴族の摂関政治から院政へと移行したり、武士が台頭してきたりなど、治安が悪化し、世の人は遂に末法の時代が到来したのだといって怯えたと聞く。
更に悪いことといえば、肝心の寺院勢力の腐敗が進行していたのだ。