わたし、気付けば溺愛されてました。


「なに言ってるの、そんなの当たり前でしょ。じゃあ、菅野が外で待ってるから行こうか」


「うん。お願いします」


わたしの今回の負傷は、右ひじの骨折と、左ひざの打撲。あとはかすり傷や切り傷。


あのとき本気で死んだと思ったけど、これくらいの怪我で済んで本当に幸いだ。

わたしはてっきり、内臓のひとつやふたつやられてて、一か月入院は覚悟してたのに。


骨折と打撲なら、今日退院してやるんだ。


佐伯くんが車イスを押してくれている。


佐伯くんは、すごく紳士な人だなぁ。


学校でもそんな印象を受けていたけど、はじめて話してみてとても身に染みた。


助けたのが佐伯くんで、よかったな。


「……一週間はふたりきりだと思ったのに……」


「?なにか言った?」


頭上で彼がなにやらつぶやいたけれど、うまく聞き取れなかった。


「ううん、なんでもないよ」


にこりの笑う佐伯くんは、紳士そのもの。


下心とか、なさそうな人だな。


心から本気で、そう思った。

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