レテラ・ロ・ルシュアールの書簡


 * * *

 僕らは、その後すぐにやって来た兵士に案内されて、謁見の間へやって来た。どうやらここは、条国の城中だったようだ。

 条国の謁見の間は、ルクゥ国のそれと違って、長く続く廊下がなく、障子を開けると畳が広がり、すぐに玉座が見える。と言っても、玉座には薄い天幕が張られていて、中を伺うことは出来ない。

 条国では、謁見の間と言わず大広間などと呼ぶと書物で読んだ覚えがある。確か、玉座も上段の間とか、一の間とか言うらしい。これらは確か、驟雪国でも同じだったはずだ。

 大広間に通されて、跪こうと立膝をすると、部屋の中にいた、おそらく官吏だと思われる男に座って良いと言われて少し戸惑った。

 僕らの文化に、床にじかに座るというものはない。思わずヒナタ嬢を見ると、ヒナタ嬢は躊躇うどころか、堂々と胡坐を掻いていた。惚れ惚れするほど、大胆だなぁ……。

 逆に陽空は僕と同じように戸惑ったようだ。確か、水柳国にも床に座るという文化はなかったはずだ。

 ちなみに僕らは今、靴を脱いでいるから裸足だ。靴は兵士が預かると言って、どこかへ持っていった。屋敷の中を裸足で歩くなんて、これまた地べたに座るのと同じく初体験だ。汚くないのだろうかと、ここに来る間まじまじと廊下を観察したが、土汚れ一つなかった。当然と言えば当然か。皆裸足なんだから。

 僕が興味津々に辺りを見回していると、廊下から男の声が聞こえてきた。

「もう御二方、到着いたしました」

「入室を許可する」

 官吏らしき男が応えて、障子は静かに開かれた。逆光を浴びながら立っていたのは、一人の老人と、浅黒い肌をした女性だった。

 老人は、驟雪国や条国で見られる着物(ハフル)という衣装を身に纏い、女性は白いマントを羽織っていて服装は見えない。彼女の表情は、どこか自信に満ちているように見えた。

 褐色の肌を持つのはハーティム国の者だけだから、多分彼女はハーティム国の人間だろう。紫色の瞳で、彼女は部屋を見回す。

 地図で見るとハーティム国は最北端の位置にあるけれど、隣国である驟雪国との間に流れる紅海という海では磁気異常が起こる。

 そのため気候異常が起き、紅海の先にあるハーティム国の気候は夏であることが多く、季節も一ヶ月以上遅れてやってくると書物で読んだ記憶がある。

 だからハーティムの者は褐色の肌が多い。と、すると老人が驟雪国の人間だろうか。それとも、条国の要人だろうか。
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