レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

 * * *

 晃と一緒にオウス城に帰ると、火恋がコインを置いてある部屋で待っていた。火恋は楽しそうに駆けて来ると、「おかえり」と言って僕の手を取った。

 無邪気な笑顔は相変わらずだけど、五年前にくらべるとやっぱり見違えるくらいに成長してる。火恋に逢うと、子供が大きくなるのは早いもんなんだなぁと逐一思う。

「ただいま」

 僕が言うと隣にいた晃も、「只今帰りました」と挨拶をした。
 火恋は晃をちらりと見て、僕に目配せをしながら腕を引いて晃から背を向けた。僕にかがむように指示すると、こそこそと耳打ちした。

「どうだったの?」
「どうって?」
「だから、ちょっとは進展あったの?」
「……」

 答えたくない。
 だけど、火恋は僕の肩をつんつんと小突いて急かした。

「どうなの?」
「……ない。どころか、後退かな」
「え~!?」

 火恋はすっとんきょうな声を上げた。
 僕は慌てて火恋の口を塞ぐと、晃を振り返って愛想笑いを送った。晃は怪訝に首を傾げている。

「どうしてそうなったの!?」

 火恋は僕の手を振り解いて、責めたてた。この年頃の女の子はマセガキだっていうけど、本当にそうだよな。まあ、火恋は昔からませてたけど。
 僕はそっと嘆息して、僅かに首を振る。

「それは聞かないでくれよ」
「え~!? どうしてよぉ!」

 僕の落胆っぷりを察することなく、火恋は地団太を踏んだ。しっかりしてるように見えて、何だかんだいっても子供だな。

 火恋の頭に手をやって、「大人には色々あるんだよ」とかっこうつけてみた。火恋は腕組みしながら、僕を睨みつけて、ぶすっと口を尖らせる。

「本当、ダメな二人ね!」
「僕だけじゃなくて?」

 首を捻った僕をもう一度、今度は呆れたように睨み付けて、火恋はそっぽ向いた。

「知らな~い!」

 ぶつぶつと聞き取れないくらいの低声で文句を言いながら、火恋は障子に向うと廊下に出て、振り返った。美少女が台無しなくらいのふくれっ面だ。

「レテラおにいちゃんなんか、さっさと帰っちゃえ!」

 しっしっと僕を追い払うしぐさをした火恋に、晃は、「火恋様!」とたしなめる声音を出したけど、火恋は無視して廊下を進みだした。

「はいはい。帰るよ」
 僕はなんだか微笑ましく思いながら、火恋の背に手を振った。
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