レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「本当にごめんね。普段はあんなことしないのに」
「良いよ、別に。可愛いしね」
「ごめんね」
晃は申し訳なさそうに言って、「ありがとう」と付け加えた。
「火恋様は、レテラのこと気に入ってるみたい。お兄ちゃんだと思ってるんじゃないかな」
「お兄ちゃんって年かな。どっちかっていうと、お父さんの年じゃないか?」
僕が笑って言うと、晃の表情が突然沈んだ。
「レテラは……結婚しないの?」
「え?」
突然の質問に、僕の胸は何故だか高鳴った。ときめきでもあったし、ぎくりとした思いでもあった。
「しないよ」
したい人はいるけど――。
「どうしてか、聞いても良いかな?」
「うん、と……」
どきまぎしていると、晃はいけないことを訊いたと思ったのか、
「ごめんね。大丈夫。良いよ答えなくて!」
と、わたわたと手を振った。こんなに焦ってる晃を見るのは初めてだ。顔が見る見るうちに赤くなっていく。
(どっちなんだよ……。全然分かんねぇよ)
僕の中で、不安と期待が渦を巻く。僕のこと、少しでも好きだって思ってくれてるって、そう思って良いのか? 僕の気持ちは期待に一歩傾いた。
僕は晃に手を伸ばして、晃の肩を掴もうとした。晃は怪訝そうな瞳で、でも熱視線のようにも見える眼で、僕を見据えた。そのとき、僕の脳裏にさっきの言葉が過ぎった。
〝友達の心配するのは当たり前じゃない〟
友達――その言葉が僕の頭の中をぐるぐると廻る。
気がついたら、僕は腕をだらんと下ろしていた。
「レテラ?」
晃が心配そうに僕を覗き込んだ。僕は思わず顔を背けてしまった。ちらりと見えた、晃の悲しそうな瞳。
だけど、僕は晃を再び見つめ返すことが出来なかった。
「ごめん。もう、帰らなきゃ」
「そっか……」
晃のどこか残念そうな声を背に、僕は出書院の上に置いてあった転移のコインを投げた。
黒い歪が床に出現し、僕はその中に足を入れた。
「気をつけてね」
晃の優しい声に胸が痛んだ。後悔して振り返ったときには、もう見慣れた部屋に戻っていた。