レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
「でも、珍しいな」
転移のコインが置いてある部屋までの道中、廊下で僕は投げかけるようにマルに言うと、少し前を歩いていたマルが振り返って、「うん?」と訊いた。
「マルがここを離れるなんてさ。今まで何度かオウスに行こうって誘ったけど、首を縦に振らなかったろ?」
「ああ。そうだね。今回は状況が違うからさ」
「状況?」
尋ねながら、僕はマルの横に並んだ。
「ちょっと確かめに行くんだよ」
マルの顔はいつになく真剣だ。
「確かめに?」
マルは僕を振り返って、じっと見つめてきた。数秒間は黙ってたけど、なんだか気恥ずかしくなってきて、僕はぶっきらぼうに訊いた。
「なんだよ?」
「う~ん」
マルは唸って、眉間にしわを寄せる。
「レテラって、能力者?」
「は?」
(突然何なんだ?)
「まあ、一応はね」と答えると、マルはすごく意外そうに驚いた。
「そうなの!?」
「なんだよ。僕が能力者じゃいけないか?」
「そうじゃないけど、今まで一度も使ったことないよね?」
マルはまだ驚いている。
「それほど使えない能力なんだよ。僕だって自分が能力者だって、今訊かれるまで忘れてたからな」
「どんな能力なの?」
マルは興味津々に訊いてきた。僕は、言うのをためらった。
自分の能力を誇れるものだと思ったことはないし、なるべく口にしたくはなかった。
言ったら、〝そういうこと〟が起きそうな気がして。だから、僕は言葉を濁して伝えた。
「あ~……なんていうか、生きてる間は本当に使えない能力だよ」
これ以上は言うつもりはないぞ。と、マルを強い眼で見る。気づいてくれよ。
「歯切れ悪いなぁ。それじゃ分からないだろ?」
(通じなかったか)
僕はがっくりと項垂れたくなったけど、マルに空気を読めって方が難しいんだよな。僕は反省しつつ、話をそらす事にした。