レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
僕はじろりとマルを上下に見る。マルは相変わらずいつ梳かしたか分からないぼさぼさの頭で、いつ着替えたか分からない薄汚れた白い着物を羽織っている。
「それにしてもさぁ、もうちょっと身なりに気を使ったら?」
「それこそ無駄だよ。実験で汚れることもあるのに、着飾ってどうするんだよ」
「それもそうだけど」
「それに、僕、恋愛感情で人を好きになったことないんだよね」
「本気か?」
マルは衝撃的な発言をさらっと言ってのけた。僕は目を見開いて口をあんぐりと開く。
「本当だよ。嘘ついてどうすんのさ」
平然と言ってのけたマルをまじまじと見据えて僕は、まあと頷いた。
「人それぞれ色んなやつがいるからな」
僕も晃に逢うまではそうだったし。
「だろ? でも、僕レテラもそういうタイプなのかと思ってたけど、違うみたいだね」
「マル……もしかして知らないのか?」
「なにが?」
マルはきょとんとした表情で僕を見る。僕は驚きながらも腑に落ちた。城の大半が僕が晃を捜していたことを知ってる。でも、マルがそれを知ってるわけがないんだ。というか、知る気があるわけがない。
「マルが噂話になんかに耳を貸すわけないよな」
ぽつりと独りごちると、マルは、「え? なんだって?」と耳を欹てた。でも僕はかぶりを振って、
「お前、本当に実験にしか興味ないのな」
僕の呆れ果てたようすに、マルは眉間にしわを寄せてむくれてみせたけど、すぐに元に戻って平然と言った。
「まあ、今のところはね」
「今のところっていうか、マルの場合ずっとそうな気がするよ」
「言えてる」
明朗に言って、マルはふと笑った。