レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
火恋の部屋へ行くと、火恋と晃は何事かと振り返った。
たくさんの巻物を置いた文机の前にいた火恋は、突然の訪問客にくりくりな瞳をもっと大きくしてびっくりしている。
晃はその斜め後ろにいて、火恋と同じように驚いた表情で振り返っていた。正座をしていて、捻った腰がくびれを作り、美しい身体のラインを映し出していた。僕は思わず唾を呑む。
「やあ。火恋」
「……お姉さま?」
火恋は目をぱちくりとさせた。
「あれ? 久しぶりで分かんない?」
「うん。ちょっと一瞬分からなかった」
飄々と訊いたマルに、火恋は素直に答えた。そりゃそうだよな。五年も逢ってないんだから。しかも当時、火恋は六歳だ。覚えてなくても不思議はない。
「レテラ……」
晃は囁くように呟いた。その声音には戸惑いが窺える。僕は、どぎまぎしながら晃を見据えた。
「久しぶり。晃」
「うん。久しぶり、レテラ」
晃はにこりと微笑んだ。血圧が急激に上がったような気がする。全身が熱くて、胸が苦しい。
(やっと、逢えた)
逢いたかった。
その微笑が見たかった。
「ネックレス、してくれてるんだね」
晃は、もう一度にこりと笑んだ。その笑顔を見た瞬間、僕は何故かすごくほっとして、晃を抱きしめたくなった。
そのまま、返事をすることも忘れて晃に魅入る。
互いの視線が交差する。熱い瞳。求められてるような感覚。――思わず、勘違いしそうになる。それでも、晃から目を離せない。
「ところで、晃って人どこ?」
僕ははっとして小さく肩を震わせた。我に帰って晃から目をそらす。さっと顔を背けた晃を目の端で捉えた。
「もう、お姉さま!」
火恋はマルに咎めるような声音で言って、ぎろりと睨み付けた。マルは怪訝に顔を顰めてからもう一度、「で、どこ?」と訊いた。火恋は呆れ果てたように深いため息を零す。
「私です」
晃が控えめに言って、小さく手を上げた。
「ああ。キミなの」
マルは嬉しそうに言って、晃に寄った。
「ちょっと訊きたいことがあるんだ。別の部屋に移動してくれる?」
「はい。分かりました」
晃は不思議そうにしながらも了承して立ち上がる。
すれ違うとき、晃と目が合った。ドキッと心臓が跳ねる。晃を見送りながら、僕は熱い頬を擦る。
「ずいぶん、久しぶりじゃない」
生意気な声音がして、振り返った。火恋が片方の眉を釣り上げて、腕を組んで仁王立ちしている。
「そうだな」
「そうだな!?」
怒鳴られて、思わず肩を竦めた。
「なんだよ。びっくりするだろ」