レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
第十二話

 晃とは普通に接することが出来るようになった。といっても、この半年間逢う事は出来なかったけど、手紙の文面は前のようにくだけたものになっていた。

 第三の魔王の制作が決まって、僕も祖国と連絡を取ったり、転移のコインを使って帰郷して準備したりしなくちゃいけなくて、晃には逢いに行けなかった。

 僕は転移のコインの前で、祖国から届く生贄となる人材を待っていた。大人数になるので、城の庭で待機している。

 僕の前には賓客を出迎えるために王がいる。その斜め後ろには殿下が控えていた。

(きっと不機嫌な顔をしてるんだろうな)
 王が他国の使者を玉座の前以外で出迎えるなんて、ありえない。殿下はそう進言し、激怒しておられたから。

 僕もそう思う。そんな話、聞いたことがない。
 でも、王は頑として譲らなかった。

 世界を守るために犠牲になる命に、敬意を払わないでどうするのだ――。
 紅説王はそう仰って、毅然とした態度で殿下を一蹴なさった。

 あいかわらず、紅説王は僕の斜め上を行く。だけど、心底尊敬はしてるんだ。
 王の仰った言葉にも、心底感銘した。

「そろそろ来る頃かな」

 僕の隣にいたマルがそう呟いて、間を挟んでいたアイシャさんが、「そうね」と返事を返した。その横にはムガイがいる。

 今日来るのは、ルクゥ国の者達だけじゃない。
ハーティムからもやってくる。水柳と玉響は昨日もう連れて来ていた。

 生贄となる者達を牢に入れておきましょうと言った殿下の意見を却下し、王は自由に歩き回っても良いと言われたけど、それでは逃げ出す危険もあるということで、折衷案として生贄となる者達は座敷牢にいる。

 僕は庭を見回した。
 軍隊の練習が出来るくらい広い庭には青い芝生が広がっている。遠くに石垣が見え、その付近に松や梅の木なんかが植えられていた。

 静かな風が吹いて、僕は顔をコインの方に向ける。すると、芝生が僅かに歪み、黒い穴が広がった。

(来る)
< 109 / 217 >

この作品をシェア

pagetop