レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
密かに緊張が走る。
一番最初に穴から顔を出したのは、懐かしい人だった。ミシアン将軍だ。昔と代わりなく、たくましい体つきに、柔和な面立ちだ。なのに、その立ち姿はしゃんとしていて凛々しい。
彼が一歩踏み出すと、白銀の鎧が陽光を反射し、白い光が顔の影をとばす。ルクゥ国人特有の白い肌が光り輝くように照り、一瞬、神聖なものを見たような錯覚に陥った。
ミシアン将軍の後に続いて、ぞろぞろと人が穴から湧き出してきた。
すぐに庭は手枷をされた人や、それを取り囲むルクゥ国の兵士で埋まってしまった。
ミシアン将軍は振り返り、全員出てきたのを確かめると、王の前に歩み寄って跪いた。
「苦労であった」
「ありがたき御言葉。光栄にございます」
紅説王は毅然とした態度で、前を見据える。本当は、複雑なんだろうなと思いながら、僕はそのやり取りを見守った。
「この者達は、どちらに運べばよろしいでしょうか?」
「それはこちらでやりますゆえ。どうぞ、お帰りくださってけっこうですよ。此度の件、まことに感謝いたしまする」
ミシアン将軍の質問に答えたのは、青説殿下だった。
「そうですか。しかし、遠路はるばる多くの者を引き連れてきましたものですから、しばしの休憩をとりたいと思うのですが……」
「……」
王は表情一つ変えなかったけど、殿下は僅かに嫌悪のある表情を浮かべた。ぴりっとした空気が伝わった。
殿下の気持ちが手に取るように分かる。転移のコインで移動してきたくせに、長旅してきましたみたいな口調で言われても、不愉快なだけだろう。
「良かろう」
許可した王をほんの一瞬、殿下は睨みつけた。
許可しなかったらしなかったで角がたつかも知れないけど、断っても特に面倒なことにはならないはずだ。だから、僕は王が許可を出したことに驚いた。
「ああ、良かった」
ミシアン将軍は、ほっとした声音を出した。