レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「でも大丈夫だ。カモミールは条国にはないしな」
「僕がルクゥ国から買ってきますよ」
「いや、良いんだ。レテラに迷惑をかけるわけには行かない」
王は遠慮がちに笑って、不意に顔を曇らせた。
「それに、今転移のコインを使うわけにはいかないからな」
ぽつりと呟かれた低声に、はっとした。
回収するしないで揉めてる中で転移のコインを使えば殿下がどう思うか。この兄弟の関係をもっと悪化させることは見るまでもない。
「申し訳ありません」
頭を下げた僕に、王の慌てた声が届く。
「いや。良いんだ、顔を上げてくれ」
僕はためらいながら頭を上げた。王は、相変わらず優しそうに笑っている。
「レテラは優しいな」
(いいえ)
僕は、心の中で反論した。
(お優しいのは、王の方です)
「気持ちだけ、ありがたく受け取っておくよ」
「はい」
僕が答えたとき、後ろから、
「やっぱりここでしたか!」
興奮気味なマルの声がして、駆けて来ると僕に見向きもしないで王に報告した。
「能力者から返事が来ました」
「そうか」
「能力者?」
僕は遠慮なく会話に交じる。マルはすんなりと話しに入れてくれた。
「そう。探知能力者の選考してたんだ。魔王の器の適合者を見つけるためにね。で、一ヶ月前に決まったから連絡してたんだよ。了承してくれるかどうか」
「へえ」
僕は内ポケットからメモ帳を取り出す。
「円火、それで誰に決まったんだ?」
王はマルに真剣な瞳で尋ねた。僕は意外に思って、若干目を見開いた。
「王は御存知なかったんですか?」
いつもならマルと協同でことにあたってるのに。
紅説王は眉尻を下げた。
「この一ヶ月はごたごたしていたからな」
ああ。そっか……。
僕は、先程のことを思い出した。聞いちゃいけないことを訊いちゃったな。僕が気まずそうな顔をしてたのか、王は気遣うようにぱっと表情を明るくなされた。