レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「だから、円火に一任していたんだ」
「そうですか」
王の気遣いを無駄にしないように、僕も明るい表情を心がける。
「紅説様、この子がそうです」
マルがすっと歩み出て、小さな巻物を手渡した。王はそれを開く。ここからじゃ見えないけど、どうやら名前や履歴が書かれているらしい。
見てみたいけど、これ以上王の御迷惑になるのは心苦しい。僕は好奇心をぐっと抑えた。
「……」
王はしばらく黙っていた。じっと、文面に見入っている。やがて、すっと顔を上げて硬い声音で言った。
「この候補者でなければいけないか?」
それは質問というよりは、要請といった感じが強かった。
(なにか問題でもあるのか?)
訝った僕を、王はちらりと一瞥した。僕はますます首を傾げてしまう。でもそれを吹き飛ばすくらいマルが驚いた。
「この子が一番数値が高いんですよ。条件もぴったりだし! これ以上ないですよ!」
「本人の承諾は?」
「とってありますよ。もちろん、王の仰ったように無理強いはしてませんよ。やるやらないは本人に任せたし、考える時間も十分に与えました」
「そうか……」
王はどことなく渋々といった感じで呟いて、
「では、火恋には私から言っておこう」
火恋?
「呼ぶんですか?」
「いや。私から出向こう」
「それはダメですよ。紅説様は城から離れられないでしょ。だったら、僕が行きます。一応お姉ちゃんだし」
「そうか。円火からの方が良いかも知れないな」
王は自答するように呟いて、「では、頼む」とマルを見据えた。
「了解です」
マルは大きく頷く。
火恋がどうかしたのか? と口を挟む前にマルは駆け出した。僕はその背を目で追って、王に戻すと、王はもう歩き出していた。僕を振り返ると、「私も仕事に戻る」と、言ってにこりと笑んだ。
僕は、頭を下げて王を見送った。