レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
十四話
僕はそれから数日、自室に篭った。正直、どうやって帰ってきたのかも覚えてない。
毎日何も手につかないのに、憎しみだけがふつふつと湧いてくる。僕はイライラしながら部屋中を歩き回った。
最後の引きがねを引いたのは王だ。王さえ呪文を唱えなければ、晃は死ななかった。マルが晃のところへやって来なければ、晃は話を聞くことさえなかったはずだ。
極めつけにあの、少女。
あんな子を呼び出すために、晃は犠牲にならなくちゃいけなかったんだ。ぐるぐるとした憎悪が内臓を抉る。胃が握りつぶされるくらいに痛んで、僕は膝をついてうずくまった。
晃に逢いたい。
もう一度、笑って欲しい。
僕は零れ落ちた涙をごまかすように、畳に倒れて体を丸めた。
嗚咽しながらぼろぼろ泣いて、涙が枯れた頃に、二度と晃に逢えないんだと、非情な現実が頭を過ぎってまた泣いた。
どれくらい泣き続けたのか分からないくらい泣いて、涙がやっと止まった。頭がガンガンする。僕は、鈍痛のする頭を押さえて目を閉じた。
ふと、気づくと夜が明けていた。
意識を取り戻すたび、夜になったり、朝になったり、昼や夕方……こんなことを何回繰り返しただろう。
日の光が長く部屋へ入り込んでいる。この傾き具合だと、正午を回ってるだろうな。ぼんやりと考えて、僕は起き上がった。
まだ頭が痛い。
僕は、ふらふらと立ち上がった。
不意にまた雫が頬を伝う。
僕は目を擦って涙を拭うと、障子を開けた。何日ぶりなのかは分からないけど、久しぶりに見た空は、穏やかに晴れ渡っていた。
心との対比を表しているようで、なんだか無性に腹立たしい。僕は湧き出た涙をまた拭って障子を閉めた。光が遮られて、少し暗くなった途端、ぽっかりと空いた胸に、ずるりと憎しみが忍び込む。
――あの少女の代わりに、晃が帰ってくれば良いのに。
僕は障子の前で立ち尽くしていた。
あの少女が死んだら、晃は帰ってくるんじゃないか――そんな妄言がふと顔を出した。
そんなことはない。あるはずがない。死んだ人間は生き返らない。
(だけど、もしかしたら……)
僕はぶんぶんとかぶりを振る。
でも、もしかしたら――。
「レテラ、いるか?」
はっとして息を呑んだ。心臓が跳びはねて、ばくばくと早鐘を打つ。胸を押さえて、障子から一歩下がった。
「入るぞ。良いか?」
陽空の声だと気づいたのは、このときだった。心配するような、窺う声音だった。
僕は答える気になれずに、また一歩下がった。
障子がゆっくり開いて、眉尻を下げた陽空が現れた。
僕は、何故だろう。陽空の顔を見たと途端、ほっとした自分に気づいた。すごく久しぶりに陽空を見た気がする。