レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
官吏らしき男が号令のように言って、端から順に自己紹介が始まった。
「驟雪国に任命され、此度の任務に就きました。拝謁至極にございます。燗海と申します」
「ハーティム国より仰せつかりました。アイシャ・アザハルトと申します。此度の任務に携われること、一生の幸福にございます」
「ルクゥ。ヒナタ・シャメルダ・ゴートアール」
「水柳国より参じました。焔(エン)・陽空にございます。此度の任務、お役に立てるよう、謹んで努めさせていただきます」
皆立派に口上を述べるなぁ。我が道を行くヒナタ嬢以外は――なんて、思いながら、僕も続いた。
「ルクゥ国より、ヒナタ様の補佐のため参りました。レテラ・ロ・ルシュアールと申します」
「面を上げよ」
きりっとした堅い声音が、耳に心地よく響いた。僕は、緊張しながら顔を上げた。
天蓋の中で、影が合図を送るように片手を挙げる。
すると、するすると天蓋の布が巻かれていく。胡坐を掻いた男が姿を現した。彼は、背筋を伸ばし、深紅の衣冠束帯を身に纏っていた。
案外若い。
僕は少し度肝を抜かれた気分だった。紅説王が即位したのが一年前、二五歳のときだったから、若いというのは知っていた。でも、目の前にいる王は、まるで青年のように思えた。僕より少し上くらいの、青臭いことを言っても許される年齢。そんな風に見えた。
その一方で、優しげな目元の奥から、不思議なほど強い引力を感じるような、この人についていきたいと思わせるような、そんな雰囲気がある。紅説王は口を開いた。
「此度の計画のため、集まってくれて感謝する。私は、三条(みじょう)紅説。こちらに控えているのは、我が弟、三条家分家の、二条青説(にじょうせいとく)だ」
そう言って紅説王が指したのは、上段の間から少し離れた場所に控えるように座っていた男だった。あの、神経質そうな官吏だ。
彼は俯きかげんだった顔を、すっと上げ、すましたように僕らを見て軽くお辞儀をした。
(この人、王弟だったのか)
僕は、意外な心地で彼に視線を送る。でも、どう見ても、青説殿下の方が年上に見える。気難しそうな表情がそう見せているのかも知れない。
そんなことを思っていると、殿下に鋭く睨まれた。僕は慌てて視線を逸らし、ヒナタ嬢と陽空に、彼が王弟だと訳した。