レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
どんなつもりで足が向いたのか、僕にも良く分からない。
顔を見たくなった。
話をしてみたくなった。
姿を見たら、何か感じるものがあるかも知れない。
ただ単に、殺したくなった――それだけかも。
僕は無意識に動かされるように、ただただ足を動かした。彼女がどこにいるのかは知らなかった。見つからなければ良いとも、頭の隅で思っていた。
ふらふらと歩き回り、障子を開けては空の部屋を見るともなしに一瞥して、閉める。それを繰り返して、僕の視界は今までと違う風景を捉えた。
手前の部屋はがらんどう。奥座敷の障子は開け放たれ、布団が敷かれている。布団の中には、誰かが。
長い黒髪を布団に撒き散らすように垂らし、人形のように深く眠る。美しい少女だった。僕は、ふらりと近寄った。
白いシーツの上に黒い宝石のような細く、艶のある髪が映える。頬は、ほんのりと赤く色づき、薄い唇は薔薇のように赤い。
その血色が、彼女が生きていることを物語っていた。
僕は、呆然と膝を突いた。
彼女がぐんと近くなる。
少しだけ伸ばせば、その頬に手が届く。
僕は、彼女をただ見続けた。見続けて、そして、不意に手を伸ばし、彼女のか細い首に手をかけた。
柔らかく、吸い付くような肌が手のひらの感覚を覆う。一気に力を込めた。両手の親指が硬い骨に当たる。構わずに更に締めあげようとして、不意に力が抜けた。
彼女の頬や黒い髪にぼたぼたと涙が零れ落ちていく。
僕は震えながら、その手を離した。全身に力が入らない。そのまま自分の膝に傾れ込むように丸まった。
心臓が早鐘を打ち、僕を苦しめる。
「できない……!」
搾り出すように呟いて、僕は腕を掴んで自分を抱きしめる。
この子を殺す事も怖かった。だけどそれ以上に、晃が全てを投げ打って得た者を殺すことは出来なかった。そんなことをすれば、晃のしたことが無駄になる。
「僕にはできない」
なんて、情けないんだろう。
僕は、なんて役立たずなんだろう。
「レテラ」
優しい声音が聞こえて、顔を上げた。ばたばたと涙が畳に落ちる。
廊下の障子の前に、燗海さんが立っていた。