レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
王が襖を開けると、薄暗い室内の中心で布団から上半身を起こしている少女がいた。聖女だ。
(起きたのか)
年齢は十七歳くらいだろうが、目を開けている彼女は結構大人びて見えた。薄暗い室内に明かりが射して、黒々とした黒曜石のような、きりっとした瞳が妖しく光る。
(珍しい)
僕は彼女をまじまじと見た。
黒い髪に黒い瞳の者はごく稀だ。というか、同じ瞳と同じ髪の色の者が滅多にいない。それはどこの国の者でも同じだった。
「大丈夫だ」
紅説王が優しく宥めるように言って入室した。
聖女はどことなく脅えている風に見える。そりゃ、そうか。目が覚めたら知らないところにいたら、怖いよな。
僕はなるべく柔らかく笑みを作って、
「大丈夫?」
まずは、ルクゥ国の主要な言葉で話しかけた。
これで通じなかったら、ルクゥ国にいる少数民族の言葉で話してみよう。全然様相は違うけど、ヒナタ嬢の民族の言葉を試してみようかな。僕がそう思うと、彼女は口を開いた。
「~~~~? ~~~~?」
は?
僕は目が点になった。
思わず王と顔を見合すと、王もきょとんとした顔をしていた。ってことは、聞き間違いじゃないんだよな?
「え~と……今、なんて言ったのかな?」
彼女は泣き出しそうに顔を歪めて、
「~~~~?」
またわけの分からない言葉を喋った。
「すみません。紅説王。僕じゃ全然分かりません」
申し訳ない気持ちで謝ると、
「いや……」
王は言葉を濁して、何かを考えるように眉を顰めた。
僕は怪訝な思いで王を見やった。
王は、そのまましばらく考え込むようにじっと一点を見つめていたけど、突然思い至ったように顔を上げた。
「もしかしたら……」
王は一瞬ためらって、信じられないことを言った。
「彼女は、この世界の者ではないのかも知れない」
疑心に満ちた声音から、紅説王自身もその仮説を信じ切れてないことが窺えた。
(まさか、異世界なんてそんなことありえないだろ)