レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
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紅説王は、燗海さんも呼んで彼女に様々な言語でいくつかの質問をしていった。僕はそれを胡乱げな瞳で見つめる。
燗海さんは、世界中を旅して回ったが、こんな言葉を聞いたことはないと言って困惑していた。
王はどことなく確信を持っているようだったが、半信半疑といったようすは拭えないようだった。
常識的に考えて、異世界から人がやってくるなど、ありえない。でも、もし本当にそうなら――僕は、隅の方で踊り出す心を感じていた。
結局色んな言葉で色んな質問を投げかけてみても、聖女の答えはちんぷんかんぷんだった。
不安げな聖女を一人残し、僕たちは廊下へ出た。
「どうします?」
「とりあえず、女子(おなご)を置いた方が良いじゃろう。男がわらわらいるよりも安心するじゃろうしな。アイシャが適任じゃろうな。あの子は気が利くし、優しい。相手も心を許しやすい」
「確かにそうですね」
「分かった。では、当分はアイシャに頼もう。言葉が分からないのなら、教えていくしかない。それもアイシャに任せた方が良いだろうな」
「僕も一緒にいても良いでしょうか?」
「ああ。それはかまわない。私も暇を見つけて通おう。これでも、勉強を教えるのが上手いと褒められたことがあってな」
王は照れたように笑った。
「じゃあ、僕もアイシャさんと一緒に教えたり、暇を見て教えますよ」
「それは良い考えじゃな。言葉というのは、その言語が飛び交う中にいる方が格段に覚えやすいからな。なるべく大勢で、かつ、威圧感のない人材を配置すべきでしょうな」
「そうだな。燗海の言うことはもっともだ」
「して、何語を教えますかな?」
燗海さんの質問に、王は悩んで、「う~む」と唸った。条国って即座に言って良いのに。王は僕らに遠慮してるみたいだ。それとも他に考えがあるのか?
「では、まずは条国の言葉に致しましょうか。ここは条国。条国の言葉で満ち溢れておりますからな」
燗海さんの提案に、王は「そうだな」と、小さく頷いた。