レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
この三ヶ月ほど、主立ってアイシャさんが聖女に言葉を教えるべく奮闘した。僕も参加してコトの詳細を記録していたけど、聖女はやっぱりアイシャさんの方が安心するみたいで、僕と二人きりになると緊張感が伝わってきていた。
燗海さんはもちろん、王も時間を見つけては聖女に言葉を教えていたけど、成果はあまり上がっていない。
異世界というのは突飛だが、どうやら聖女はどの国ともまったく違う言語を操るところからきたということだけは確かなようだった。
じゃなかったら、知ってる単語の一つや二つがあってもおかしくない。各国で共通の物だってあるわけだし。
例えばドラゴンを狩る武器の名とか、豚竜などの食材だってそうだ。
僕は清書をしていた筆を置いて、腕を組んだ。
じっくり言葉を教えていくしかないのは分かっているけど、こうも進まないと気ばかりが焦る。
晃が命がけで挑んだ結果が、目に見えてこないというのは、なんだかもやもやしてしまう。
魔王が消えてしまっていることから、多分魔王は彼女の中にあるんだと思う。でも、能力が発動しないんじゃ、その確信も出来ない。
魔王の中の何千という能力を発動して魔竜を倒すという悲願も、彼女が言葉が通じないんじゃ、説明のしようもない。
僕は文机の上に置いた時計をちらりと見て立ち上がった。
「時間だな。さて、火恋のところへ行くか」