レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
そんなに大勢が自分の中にいるなんて知ったら、言っちゃ悪いが気色悪いだけだと思うけど。それか、数が多すぎて想像すら出来ないか。
「……っ」
あかるはどうやら想像できたらしい。
洟を啜る音が聞こえた。それが徐々に激しくなって、
「ううっ……」
嗚咽が聞こえ始めた。
(泣いてるんだ)
まあ、そうだよな。混乱して当たり前だ。
ただの女の子だったのに、突然縁もゆかりもない世界に呼ばれて、自分の中に見知らぬ人の命があって、それを使って恐ろしい魔竜を倒せっていきなり言われても、混乱しない方がどうかしてる。
同情心がふつふつと湧いてくる。
僕は手を動かしながら、少しずつすり足で戸袋の端に近づいて中の様子を覗いた。
(――え!?)
思わず声が洩れそうになって、僕はすばやく自分の口を押さえた。
目を瞬かせて、その光景が幻じゃないことを確かめる。
紅説王が、座って泣きじゃくるあかるを抱きしめていた。
慰めてるんだろうということは僕でも分かる。ただ、王がそういうことをすることが意外だった。
確かに王は優しいけど、特定の誰かに対して肉体的接触をすることはなかった。条国の人間は他国の人間よりも遥かにそういう接触の仕方はしない。例えば抱きつくとか、肩を組むとか、頬にキスをするとか。そういう他人との接し方はしない国民性だけど、王族の誇りからか、王と殿下は特にそうだった。
それがね……。
僕は、青天の霹靂ばりに驚いて釘付けになってしまった。これが殿下だったら、もっと驚いてたところだ。
「あかる。すまない。しかし、必ず私がお前を守る。危険な目には遭わせないと誓おう」
あかるは黙ってただ泣いていた。
王の表情は僕のところからは窺えなかったけど、僕はまるで童話の中のような、美しい光景を見ながら思ってしまった。
王のこの言葉は、責任や同情から生まれたものでなければ良いな――と。