レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
それから三ヵ月ほど時は流れた。
もうすぐ、庭に植えられた美樹(ミジ)も色づき始める季節になる。
美樹は、紅葉する木のことだ。紅葉する木は、日本にもあるって、あかるが言ってたっけ。
僕は、あかるのようすを思い起こした。
最初は落ち込んだようすだったあかるも、徐々に明るさを取り戻し、決心を固めたみたいだ。魔竜を倒せれば、元の世界へ戻れるかも知れないと意気込んでいた姿を見たことがある。
僕は静かに瞳を閉じて、瞑想するあかるを見やった。
あかるは毎日、研究室で能力を引き出すための鍛錬をしている。マルと王が言うには、元々あかる自身には能力がないため、能力を引き出す感覚がないのだという。
そこで、自分の中に眠っている能力者の魂を感じ取ることから始めているようだ。うまく感じ取れた時は能力が扱えるけど、ほぼ毎日研究室に入り浸っている僕が見た限りでは、まだ二回しかない。
それでもあかるは、毎日文句ひとつ言わずに鍛錬を続けていた。
「健気だなぁ」
ぽろりと出た本音。その姿に懐かしい影を見て、心にひょっこりと寂しさが顔を出す。僕はそれを見ないようにして、あかるから視線を逸らした。
その先に偶然王がいた。
紅説王は熱心な瞳であかるを見守っている。可愛い後輩や妹を見守るそれなのか、恋心なのかは判断がつかない。けれど、何かしらの好意的な感情が乗っていることだけは窺えた。
僕はほくそ笑みながら、メモ帳にそっと書き込む。
もう一度王を見て、それにしても――と改めて思ってしまった。
紅説王は相変わらず若い。
僕も陽空も、殿下だってもう立派な三十代のおっさんで、それなりの年に見えるのに、紅説王は出逢ったときと何一つ変わらないように見える。
まだまだ、青臭いことを本気で言っても許されるというくらい若く見えるし、良い男っぷりも健在だ。
まだ二十代前半みたいな容姿だし、王とあかるなら似合いの美男美女だろうなと、あかるを慰めていた光景や、あかるがやってきた月夜の日を思い出して、ふとそんなことを思った。
それと同時に、暗い小さな渦が胸の奥に生まれる。
(……やめよう)
僕は僅かに首を振る。
月の夜。あの丘で、月光を纏った王とあかるは幻想的で、まるで神々しい神のようであり、悪魔のようだった。
あの鳥肌が立つくらいに美しい光景を思い出すと、哀しくなる。
(……やめよう。思い出すのは)
――晃。
もう一度、キミに逢いたい。
僕は大きく息をついて、滲んだ瞳を瞼を強く閉じて塞いだ。