レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「おい。通訳しろってことなんじゃねぇの? この雰囲気」
「――あっ!」
僕は素っ頓狂な声を上げた。顔から火が出そうなくらい熱い。
「ごめん。夢中になっちゃって」
僕は謝罪と言い訳をして、陽空とヒナタ嬢に今までのことを訳した。
それにしても、陽空は案外、場の空気が読めるんだな。
僕は感心したような、救われたような気がしつつ、やっぱり観察しがいのある面白いやつだと思った。
* * *
陽空もヒナタ嬢も答えはアイシャさんと同じだった。もっとも、ヒナタ嬢の言い方はまるで違ったけど。
『あたしは戦う。それだけ』
王に向ってタメ口はどうかと思う。王は微笑(わら)ってたけど、殿下は物凄い顔をしてた。まるで害虫を見るみたいに驚いて、蔑んだ目をしていた。
陽空もヒナタ嬢も母国語で答えてたけど、王はそれに「そうか」とそれぞれの国の言葉で応対していた。王や殿下ともなると、国際会議があるからか、別の国の言葉も学ぶらしい。
「私は少しでも被害をなくそうと、十年弱、魔竜の研究に勤しんできた。そして、各国の協力のもと、此度の計画と成ったのだ」
紅説王はなぜか哀しげに瞳を伏せた。それと同時に、青説殿下が睨みつけるように鋭い視線を兄王へ送った気がした。
(気のせいか?)
それは一瞬だったし、気のせいかも知れない。でも、何だか違和感を感じた。この兄弟は、あまり仲が良くないのかも知れない。まあ、王族には良くあることだけど――僕は、視線を紅説王へ戻した。
「皆には、期待している。準備が整ったら、魔竜の住処へ向う。それまでは、ゆっくりしていてくれ」
紅説王は労いの言葉をかけて立ち上がった。そして、陽空を見据える。
「陽空、君には少し手伝って欲しいことがある。話がしたいから、ここに残ってくれ」
陽空に訳すと、陽空は怪訝な表情を浮かべていた。それとは対照的に、僕は期待に胸を膨らませていた。
(いったいどんな話があるんだろう!)
だけど、王は僕を見て申し訳なさそうに告げた。
「通訳は、青説がする。君は、部屋で休んでいてくれ。部屋へは部下が案内するだろう」
「……はい」
僕は密かに肩を落とした。