レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
十七話
あかるは、僕に何も聞かなかった。
僕も何も言わなかった。
晃のことを語りたいとは思わなかったし、言えなかった。あかるが晃のことを知れば、気に病むのは目に見えている。
あかるにしてみれば、自分をこの世界へ連れてくるために、誰かが死んだなんて重荷以外でもなんでもないだろう。
ましてやその人物に想いを寄せていた人間が側にいるなんて、きっと居た堪れなくなるに決まっている。あかるが負担に思って修行を止めてしまうなんてことになれば、世界は救われないし、晃の死だって……。
僕は、ふと湧きだした陰鬱な気持ちを振り払いたくなって、縁側に出た。空を振り仰ぐ。薄雲が広がり、日差しは弱かった。心を晴らすには心もとない。
僕は、目線を横に投げた。残寒の風を受けながらも、木々が蕾を膨らませている。
梅だろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながら、その健気さに次第に心が落ち着いた。
晃が、あかるの中にいると知ってから季節を二つ跨いだ。
春はもうやって来ているけれど、暖かいとは言えない気温が続く。今年は残寒が色濃い。ぽかぽかとした春が待ち遠しい。
僕はひとつため息を零して、研究室へと向った。