レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「まあ、その証言から魔王の中の能力を引き出すには、魔王の中にある魂とあかる自身を共鳴させることが必要になってくるわけだけど……」
マルは片方の眉を釣り上げながら、あかるを窺い見た。
あかるはさらにすまなそうに俯いてしまった。
「瞑想が一番だと思ったんだけどなぁ」
マルは盛大に呟いて、また考え始める。
あかるは居た堪れないようすでじっとしていた。
僕は軽くかぶりを振る。
(もう少し言い方とか考えろよな。せめてあかるがいないとこで言えよ)
マルに悪気がないのは分かる。嫌味で言ってるわけじゃない。純粋に、実験のための発言だ。でも、言われる方の身になれば堪ったもんじゃないだろう。
僕はマルに注意しようと、口を開いた。でも、紅説王に先を越されてしまった。
「円火。ちょっと良いか」
「はい?」
きょとんとするマルを連れて、王は研究室の壁際へ寄った。僕は聴覚に神経を凝らした。ひそひそとした声が僕の耳に届く。おそらくあかるの耳には聞こえてないだろう。
「もう少し言い方を考えるか、そういう話は彼女がいないところでしてくれないか」
「何でですか?」
怪訝なマルの声量はあくまでも普通だ。
(いやいや。合わせろ、合わせろ。普通こそこそ話されたら低声で応えるだろ)
「シッ!」
紅説王は子供にするように、唇の前で人差し指を立てて声を落とすように指示した。マルは、「ああ、はい」と小さな声で答えて数回頷く。
「あかるは良くやってくれてるだろう。そういうところも認めてやるべきじゃないのか」
「何言ってるんですか? 実験過程は確かに大事ですけど、良くやってるとか、やってないとかじゃなくて、僕はあくまで結果の話をしてるんですよ?」
「いや、それは、そうなんだが」
わけが分からないといった風のマルに、王は困ったように苦笑する。
「実験で出た結果を検証して、問題があれば別の方法を考えたり模索しなくちゃ。今までだってそうやって成功に導いてきたじゃないですか。僕はいつも通りのことをやってるだけですよ」
「……だが、今回は相手がいるんだぞ。実験うんぬんの前に、あかるのことを考えてやらなければ」
「分かりました。紅説様がおっしゃるのなら」
マルはわりと明るい声音で了承した。多分、あんまり良く考えてない。彼女にしたらあかるはやっぱりただの実験相手、研究材料。それを変える気はないってのは見え見えだった。
僕は嘆息しながら、首を振る。
マルらしいっちゃらしいけど。
「でも、また青説様に乗り込まれても知らないですよ」
マルは付け足すように言った。
王は、「ああ」ときっぱりとした声音で答えて踵を返してこっちに歩いてきた。
(殿下か……)