レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「修行が大変だからって、それがなに!? 私が貴方達やあの女を赦せると思う? 晃はもうどこにもいないのよ!」
「だから、青説殿下と手を組んで王を失脚させるのか」
「そうよ!」
火恋は堂々と言い放った。目の端で、マルが面食らった表情をしているのが映ったが、僕は火恋から目を離さない。
「あんな女がきたから、晃はいなくなったんじゃない」
憎しみに燃えた目、苦々しく吐き出された本音。その姿に、僕は見覚えがあった。きっと、かつての僕もこんな顔をしてた。
火恋はキッと僕を睨み付けた。
「貴方だってそうよ。晃は貴方のために死んだのに。なんでのうのうとしてるのよ。なんで、あんな女のこと優しい目で見てるのよ!」
「え?」
喉の奥で鳴るように、反射的に僕は小さく呟いた。
晃が、僕のために死んだ?
「なんにも分かってないのね。レテラは昔からそうだったもの」
火恋は嘲って鼻を鳴らす。でも、僕にはなんのことか分からない。僕のせいで死んだっていうのなら、それは事実だろうけど。僕の〝ため〟?
「晃は、レテラ、貴方からの手紙を心待ちにしてた。私のただ一人の友人だって言って。貴族なのに、気兼ねなく接してくれる良い人だって。晃は、ずっと家のために働いてきたから、友達と呼べる人はレテラしかいないんだって言ってた」
火恋は悔しそうに顔を歪めて一滴だけ涙を流した。唇を噛み締めて、僕を睨みつける。僕は、その視線から目を離さなかった。