レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
 * * *

 僕らは一時間ほど行った所で馬車を降りた。

 そこは丘の上だった。眼下には森の中に大きく開けた草原が広がっていた。

 草原は一キロ先くらいまで広がっている。しかしそこは、草ではないもので埋まっていた。

 色々な種類の動物達が檻に囲われていたのだ。その中には人もいた。

 動物達の中心で、数百人が固まるようにして立っていた。かなりの数がいる。多分、五百人以上はいるだろう。

 檻に囲まれた中に無防備なまま放置されているさまは、何となく異様だ。

「あの人達は誰だろうな。陽空」

 僕が振り返ると、陽空は馬車に逆戻りしていた。

「おい。どうしたんだ?」

 僕が近寄ると、陽空は両手を合わせてにかっと笑った。

そのまま、馬車はゆっくりと駆け出して、丘を下っていく。

「なんだよ。あいつ」

 怪訝に呟くと、後ろから声をかけられた。

「始まるようだぞ」

 振向くと燗海さんがいた。その向こうで、アイシャさんが、ヒナタ嬢の隣で覗き込むようにして下を見ていた。

 僕は燗海さんと一緒に彼女達の隣へ並んだ。

「そういえば、王はどちらにおられるか御存知ですか?」

 僕は何気なく燗海さんに尋ねた。

「おそらくは、下じゃろうな」

「下? 何故?」

「紅説王は呪術者だからの」

「呪術者? それって――」

「始まったぞい」

 僕の言葉を遮って、燗空さんは僅かに身を乗り出す。

 すると、眼下に紅い光が射した。僕は目線を下げた。草原全体を取り囲むように紅い光りが立ち上っている。

 地面に何かが描かれているのか、動物や人の合間を文字のような、絵のようなものが垣間見えた。

「あれは……?」

 僕は自問しながら、メモ帳とペンを取り出した。

「あれは呪陣だろう。おそらく紅説王がお考えになられた」

 呪陣――。僕は口の中で呟いて、目前で起きていることを書き記していく。呪陣が何なのか燗海さんに尋ねたかったけど、多分訊かなくても、今、目の前で解るだろう。

 少しの間を置いて、紅い光はいっそう眩く光りだした。

「ん?」

 そのとき僕は、異変に気がついた。

 首輪と猿轡をされた数十頭のドラゴンが、草原の周りを取り囲むように立っていた。その数は、おそらく百に近い。その後ろには鎖を持った兵士が首輪を引いて、ドラゴンを宥めたり、叱り付けたりしているようだ。

「あれは、吸魂竜(ドラグル)だ」

 僕は呟きながら、食い入る。吸魂竜は硬く、ざらついた黒い皮膚に、長い尾を持った竜で、水場を好んで生息している。特に海辺に多いとされる翼竜だった。

 二本足で立つ吸魂竜は、小さな前脚を器用に動かして猿轡を取ろうとしていた。もちろん、がっちりと締められた鉄製の轡が外れるわけがないけど。

 このドラゴンには、ある特徴があった。

「それにしても、実物を見るのは初めてだな」

 独りごちながら、僕はメモを取る。
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