レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「火恋。確かに晃は僕のせいで死んだんだと思う。晃が決心を決める前に、僕が別の提案を王やマルに出来ていたら、晃は死なずにすんだ。だけど、晃はこの世の誰よりもお前を大切に思ってたんだよ」
「……どういうこと?」
火恋は疑り深く僕を見る。だけど、その瞳には僅かに期待が滲んでいた。
「晃が犠牲になるって知った日、僕は晃を止めたんだ。王を説得するって言って。きっと紅説王も僕の言い分を受け入れてくれるはずだからって。だけど、晃は首を横に振ったんだよ」
「……なんでよ」
火恋は信じられないというように目を丸くした。
「お前がいるからだって」
「私?」
僕は深く頷く。
「この世界には、火恋がいるから。弟達がいるから、自分の大切な者がいっぱいあるから、自分が守るんだって――そう言った」
薄っすらと涙が滲んできて、僕は少しだけ上を向く。
「……そんな、そんなこと」
火恋は目をきょろきょろと動かして動揺すると、じっと黙り込んだ。噛んだ下唇がうっ血して赤く染まっている。
「僕、正直お前に嫉妬したよ」
火恋は撥ねられたように顔を上げた。
「火恋様、火恋様って、自分が死ぬかも知れないってときに、お前のことしか心配しないんだからな。結局、お前が言うように晃にとって僕はただの友達だったってことだし」
僕は切ない気分で火恋を見据えた。
晃が一番愛した相手が、目の前にいる。嬉しいような、愛しいような、でもとても寂しい。
「僕も火恋が大好きだよ。だけど、一番好きな相手がこの世にいないのは、寂しいよな」
「……っ」
火恋の顔が崩れた。歯を食いしばって、泣くのを我慢しようとするけど、大粒の涙が頬を流れていく。
「だけどな、火恋」
僕はしゃがみ込んで、火恋に目線を合わせた。俯いた彼女と目が合うと、火恋は涙を拭って視線を逸らす。でも、僕はじっと火恋を見据えた。
最も大切なことを、火恋に伝えなくちゃいけない。
「火恋。さっき、あかるの中には五千の魂があると聞いたな」
「……ええ」
火恋はわざとぞんざいな態度で答えた。