レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
火恋はしばらくしてから、泣き腫らした顔を上げた。
僕が微笑みかけると、火恋は頬を微かに赤くしてそっぽ向く。ふくれっ面を作って、涙の跡を手の甲で拭いた。
「さっき……」
火恋は気まずそうに呟いて僕を見上げた。緊張したのか少しだけ顔が強張る。
「さっき、言ってましたわよね。晃にとってレテラはやっぱり友達だったんだって」
「ああ」
我ながら情けない。
そうだと分かってたのに、きっぱりと聞かされるとやっぱり刺さるものがある。
「違いますわよ」
「え?」
火恋のさらりとした口調に、思わず聞き返した。
今、なんて言った?
「晃は確かに、私には貴方のこと大切な友達だとしか言わなかったですけど、晃のすぐ下の弟に、晃は手紙を出してたんです。計画が実行される前日ですわ。それを、弟さんがわざわざ私を尋ねてらして、見せてくれたんです」
火恋は真剣な眼差しで僕を見据えた。
「そこには、身分の違う人を好きになった。その人は外国人だけど優しくて紳士的で、とても親切。だけど、自分のことは友達だとしか思われてない――って書いてあったの。それでも、その人がいる世界を守りたい。危険な任務に赴いている彼の役に立ちたい。もちろん、それは火恋様をお守りすることにも繋がるし。だから、これはわたしの意志でわたしが選んだこと。例え何があっても、貴方達は王族や他の人を憎んだりしてはダメよ――って、そう綴られていたわ」
火恋は一瞬だけ視線を逸らして、再び僕を見据えた。
「分かるでしょ? その人って誰のことか」
「……僕?」
そんなわけない。そう思いながら、そうであって欲しいとも思う。だけど、そうでなければ良いとも思う。
「そう。貴方よ、レテラ。疑うならその手紙を見せましょうか? 今はオウスにあるけど、そこにはちゃんと、レテラ・ロ・ルシュアールの名前があるから。手紙には貴方のことばかり書いてありましたわ」
火恋は髪を払いながら、自嘲気味に笑んだ。
「私なんておまけ扱い。嫉妬していたのは私の方ですわ。レテラおにいちゃん」
僕は言葉を失った。
今更聞きたくなかったとか、すごく嬉しいとか、でもすごく哀しいとか、心の中はぐちゃぐちゃだ。
だけど、久しぶりに呼ばれた火恋からの呼び名が、温かく心に沁みてきて、僕は泣いた。