レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
それから数時間が過ぎて、事件は突然起こった。
その日の夕方、日が西の空に傾く頃、僕は自室で清書に励んでいた。
あの後、マルから聞いた話を巻物に記していく。母国に送る気はさらさらない。こんな内容を送れるわけがなかった。下手をしたら、彼女を巡って戦争にもなりかねない。
「ふう」
僕は一息ついて筆を置いた。巻物に書いた文章を目で追っていく。
ハーティム国のムガイが、どこからか情報を仕入れてきた。
驟雪国が聖女を狙っている――と。
聖女を自国のものとすれば、それだけ優位に立てる。そう考える者は今、多い。
ムガイからそれを聞いた青説殿下は、紅説王では聖女を守りきることは出来ないと踏んで、紅説王の失脚を考え始め、時期王候補の火恋に紅説王を失脚させ、火恋が王となる話を持ちかけた。火恋も一度は承諾するものの、ルクゥ国レテラに目撃され、説き伏せられて、すぐにその話を断った。
謀反の計画は、いったんは断たれたようだ。
青説殿下は驟雪国が聖女を狙っていることを紅説王に告げると円火と火恋に約束した。
ちなみに、驟雪国より任務に赴いている燗海は、一切の関与を否定している。
「うん。こんなもんかな」
僕は満足して巻物を文机に置いた。でも、すぐに心が曇ってしまった。