レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
燗海さんに話を聞いたときの表情を見る限り、燗海さんは今回の件に関与してないと思う。というより、思いたいといったほうが正確か。確固たる無罪の証拠はないんだから。
だけど、奥さんが成そうとしていた世界平和と真逆なことを、燗海さんがするわけがない。
それに燗海さんは、驟雪を出て贖罪のために世界中を旅していた人だ。祖国の頼みを聞いて、此度の任務に赴いたが、元々は国などに頓着しない人だ。そんな人が、国というもののために、そんな企てに参加するとは思えない。
むしろ、国というものに属する官吏という人種は、外部に出た人間を信頼したりはしないだろう。利用はするかも知れないが。
そういうことを考えると、やっぱり燗海さんはこの件には関わってないと思う。
僕が自分なりの結論を出したところで、障子の向こうから、陽空の叫ぶような大声が聞こえてきた。
「おい! レテラ!」
僕はびくっと肩を震わせて、慌てて立ち上がった。
「なんだよ」
ぶつくさ言いながら、僕は障子を開けようと手をかけたが、その前に障子は勢い良く開いた。
「お前、勝手に開けるなよ」
「大変なんだよ!」
僕の言葉にかぶせるように、陽空が血相変えて叫んだ。
「あかるちゃんが、死んだ!」
「……は?」
何をバカなことを言ってるんだこいつは。
あかるが死んだ? ありえないだろ。
「なに冗談言ってんだよ」
「冗談でそんなこと言うわけねえだろ!」
陽空に怒鳴られて、僕の中で不安がのし上がってくる。
「……嘘だろ」
「――来い」