レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
絶句する僕の腕を引っ張って、陽空は僕を歩かせた。
それから、その部屋に連れて行かれるまで、僕はどこの廊下をどう通ったのか覚えていない。連れて行かれたその部屋ですら、しばらくどこの部屋なのか判らなかった。
あかるは、六畳ほどの小さな部屋で寝かされていた。
あかるの長い黒髪が、静かに畳に広がり、清廉な瞳は、眠るように閉じられている。その全てが死などという穢れとは無縁のようだった。ただ、一箇所を除いて。
薄青い着物、白と青がちょうど交じり合った、美しい空のような、その部分が、紅(くれない)色に染まっている。
あかるの胸の中心。
そこに、大きな血色の滲み。
僕は、何気なく視線を奥座敷へと投げた。
その部屋には見覚えがあった。障子が開け放たれた奥の部屋は、数多にある城の部屋と代わり映えはないのに、僕はそこがどこなのか分かった。
あかるがこの世界へやって来たときに寝かされていた部屋だった。
あかるは、その手前のこじんまりとした部屋に寝かされてたんだ。
僕はもう一度、あかるに視線を戻した。
そこにはかつてのように眠る、少女の姿がある。
あの日、僕が殺したかった少女の亡骸がそこにあった。
耳鳴りがする。頬を何かが伝っていく。瞬きをしたその熱さで、涙なんだとぼんやりと悟った。
あかるにすがりつくように泣き叫ぶ紅説王。
これからどうしよう、と歯がゆさを見せるマル。
私のせい――? と、小さく叫んだ火恋。
部屋のいたるところからすすり泣く、多くの声。
その全てが、今の僕にはどうでも良い。
呆然としたまま、僕はそこに立ち尽くした。
僕はもう一度、晃を喪ってしまった。