レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
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元々白みつつあった空は明け、地平線に太陽が顔を出した。しばらく呆然としていた僕らは、誰に従うでもなく、おのずと足を前に出し、王のところへ近寄っていった。
王は結界で囲った魔王を愛しそうに胸に抱いて、瓦礫が散乱している棺の前に座り込んでいた。
王と棺の周りを舞った塵が、昇ったばかりの朝日に反射してきらきらと輝く。
その光景は、異様で、同時にひどく美しかった。
魔竜は城の一角でまるで忠実な犬のように大人しくしている。でも、不安は拭い切れない。どうしてそうなったのか、まるで見当もつかないからだ。
僕は部屋に足を踏み入れると、壁際に寄りかかっているマルを見つけた。
マルの方が話しやすそうだな、と思いながらマルを見据える。すると、マルの方から切り出した。
「話をするよ。なんで、こうなったか。紅説様、良いですね?」
「ああ」
王は頷いて、顔を上げた。僕はその表情を見てほっとした。言っちゃなんだが、正気に見えたからだ。マルは真面目な顔つきで僕らを見据えた。
「僕と王は、この一ヶ月であかるの魂が魔王の中に沈んでいることを突き止めた。だから、あかるの魂に語りかけるために共感性の強い呪符、操相の呪符を入れたんだ」
「それって、相手を操るためのものだよな?」
僕の質問に、マルは「そう」と答えて続けた。
「この呪符は、相手を操るだけでなく、呪符を持つ者と、対になる呪符を持つ者は心の中で会話することが出来るんだよ。テレパシー能力の応用さ」
マルは紅説王を見た。僕はそのようすに違和感を感じた。普段、マルは研究を説明するとき、嬉々としていたり、はつらつとしているのに、今は何となく沈んで見える。
「そうして語りかけ、あかるの魂の居場所を知ることで、あかるの魂だけを呪符の力で命じて魔王から浮上させようと考えたんだ。でも、思いがけず魔王本体があかるの体から飛び出てきてしまったんだ」
「それでか」
陽空が納得する声音を出した。僕も相槌を打つ。
「魔竜は、魔王に呼応してやって来たんだよ」
「どういうことですの?」
質問した火恋をマルは見やる。