レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
それから一ヶ月。王と殿下は荒れに荒れた。
紅説王は、魔王の中からあかるの魂を取り出すことを諦めていなかった。あかるの魂だけに語りかけ、取り出し、そして陽空の磁力で魂をあかるの肉体に定着させると言った。
これに猛反対したのは青説殿下だった。そして意外なことに、マルも反対した。
あかるの魂だけを取り出すことは危険だとマルは提示した。魔王と融合している魂を外へ引き出せば、魔王自体が歪み、崩壊する可能性もある。そうなれば、魔竜を抑えることは出来ない。
君子危うきに近づかず――冷静になってください。マルと殿下はそう説得したが、王は頑として首を縦に振らなかった。長らくここにいるが、こんな王は初めて見た。
各国には魔竜を操れるようになったことは伏せ、魔竜の封じ込めに成功したと報告してある。僕もルクゥ国にはそのように書簡を送った。詳細は書かなかったが、安心せよ。脅威は去った、それは事実なり――と念を押して。
僕はため息をつきながら、縁側に座り込んだ。
ぼんやりと庭の枯山水を眺める。そこに、陽空がやって来て僕の隣に座った。
何も言わずに陽空を一瞥すると、再び庭を眺めた。陽空も何を言うでもなくぼうっと遠くを眺めている。
僕らはしばらく無言で風景を眺めていたけど、沈黙に耐えかねて僕はぽつりと言葉を口にした。
「あのさぁ」
「うん?」
「どう思う?」
「どうって?」
「紅説王のこと」
「っていうと?」
陽空は若干身を乗り出した。怪訝な顔つきがさらに深くなる。
僕はしばらく考察して、慎重に言葉を選んだ。
「あかるのこと、愛してたんだとは思うんだよ。すごく、深くね。だけど……あれは少し、行き過ぎじゃないかな?」
紅説王のあれは愛情というよりは、執着に近いんじゃないだろうか。気持ちは僕だって良く解るけど。僕だって、晃を喪ったときはかなり追いつめられてたし。
だけど、王の今のありさまを見てると何かがおかしいと思ってしまう。
あかるに出会う前の、冷静で思慮深い王を知っているが故に、魔竜を押さえる術を無くしても良いという選択肢を選ぶ王を僕は理解できない。――というよりは、とても残念に思ってしまうんだと思う。立派だった王を知ってるが故に。
すごく自分勝手な言い分なのかも知れない。僕だって、晃を蘇らせる術があると言われたら、世界を壊してでも飛びつくかも知れない。だけど……。
僕が堂々巡りをしていると、陽空が珍しくとつとつと言葉を口にした。