レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
一か月後のことだ。
その日は突然やって来た。
良く晴れた日で、青空が心地良かった。外に散歩がてら取材にでも出ようと、僕は廊下を歩いていたんだ。
すると、廊下の角を白銀の鎧を身につけた兵士が曲がってきた。一瞬で懐かしさが蘇ってくる。その鎧の色はルクゥ国の兵士を示すものだったからだ。
僕は、てっきり紅説王に招待されて来たのだと思って、声をかけようとした。
しかし、すぐに異変に気がついた。
彼らの鎧には、血が色濃くこびりついていた。僕は動揺して立ち止まってしまった。何故だろう。一気に恐怖が湧いて出た。ひどく嫌な予感がする。
無意識に高鳴り出した心臓を隠すように、胸に手を当てた。
先頭にいた兵士が僕を見つけると、すぐ後ろの兵士とひそひそと二、三会話をする。そして僕を見ながらにやにやと笑み、近寄ってきた。
僕の脳裏には、二通りの言葉が巡っていた。
〝きっと大丈夫、彼らは何か凶悪なものを倒して来ただけだ〟という思いと、〝殺される〟という強烈な不安感だった。
僕の心臓は激しく早鐘を打ち出した。しかし、彼らはにやけた顔を突如引き締めて、僕を無視して立ち去った。
しばらく呆然としていると、城中に悲鳴が響き渡り始めた。何が起きたのか、僕はそのときようやく察した。これは、後者の方だったのだと――。
はっと我に帰り、僕は兵士の暴挙を止めようと駆け出した。そのとき、雄叫びが響き渡った。
雷のようにびりびりとした振動が鼓膜を揺らし、恐ろしいほどの大勢の駆ける音が轟く。
「なんだよ」
僕は狼狽しながら呟いた。数十人では、とても足りない足音だ。僕は、恐怖で一歩も動けなかった。僕が直視している廊下の曲がり角へ、足音は一直線に響いてくる。
目を離して、逃げたい。でも、身体も目も動かせない。――怖い。
そしてとうとう、兵士が顔を出した。緑(りょく)色の鎧を着た大勢の兵士が僕目掛けて駆けてくる。僕は、心の片隅で殺される覚悟をした。
しかし、彼らはまたしても僕をちらりと見て走り去る。そのすぐ後から走ってきた、黒い鎧を着た数十人の兵士も、僕を無視して立ち去った。今度は一瞥すらされなかった。
僕は訳が分からず、呆然と前方をただ見据えた。
足に力が入らない。へなへなと、その場に座り込んでしまった。
「なんなんだ……」