レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「どういうことですの?」
「……」
火恋は僕を凝視する。
僕は観念して告げた。
「火恋。お前はもう死んだことになってるんだよ」
「……どうして?」
火恋の瞳に不安が映る。
「マルが……自分が火恋だと言ったんだ」
「……じゃあ、お姉ちゃんは」
「亡くなったよ」
冷たい地面へ、へなへなと火恋は座り込んだ。
だけど一分も経たないうちに、火恋は立ち上がった。強い瞳で僕を見据える。
「私は、両親の許へは行きません。私は、三条を継いだのです。絶対に条国を再び蘇らせてみせる。でなければ、私のために死んだ者達に報いることは出来ません。それに自分だけ逃げるなど、そんなことは出来ませんわ。国はなくとも、私は王なのですから」
「そうか……」
火恋の決心は固かった。僕は静かに息をつく。
「気をつけろよ。無事を祈ってる」
「何を仰ってるの。一緒に逃げるんでしょう」
「……火恋、お前は知らないかも知れないけど、僕は――」
「知ってますわ」
火恋は強い口調で遮った。
「紅説様の処刑の場で何を語ったのか、風の噂で聞いてます」
でも、と言って、火恋は僕の瞳を見つめて、笑った。
「貴方のことだから、何が事情がおありなのでしょう。私、信じてますから。平気ですわ」
「火恋……」
「さあ、ここから出ましょう」
「いや、良いんだ」
番兵の腰にかけてあった鍵を取ろうとかがんだ火恋を僕は止めた。火恋は不思議そうに僕を見ている。
「ごめんな。お前と一緒にいるって約束は果たせない」
僕は静かに笑んだ。
「僕は、ここで殺されたいんだよ」