レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
数ヶ月前、アルヒーナ王国の山中で遺跡が発掘された。
遺跡は地震によるためか、風化のためか、既に原型はなかった。だが、遺跡の奥に瓦礫に閉ざされた洞窟が発見され、この日、考古学者であるハナシュ教授は、三人の学生隊に後学のため、洞窟の奥へ向かわせた。
その中の一人に、黒髪に青い瞳で、ひょろりとした体格の青年がいた。若葉だ。
その隣には二人の青年がいる。一人は白い肌で金色の髪をした鼻の高い青年。もう一人は、褐色の肌を持ち、黒い髪は日に好けると赤く照り返す。黄金色の瞳はどこか軽薄そうに笑んでいる。
三人は腰にロープを巻いて、外にいる隊と繋がりながら洞窟の奥へと進んだ。一キロほど歩いたところで、彼らは古びた巻物を見つけた。
保存状態は極めてよく、埃を払えば少し使い古した巻物程度に見えた。だが、巻物を開き、彼らは驚いた。
その内容によれば、それが書かれたのはこのアルヒーナ王国が出来る以前、ルクゥ国の時代によるものだったからだ。
アルヒーナ王国、初代国王は、ミシアン・クロウ。
彼は、ヒナタ・シャメルダ・ゴートアールという一人の女性を神格化し、戦いの女神シャメルダ神として新たな宗教デュラマタルタを設立。
それが当時の経済恐慌と相まって、民衆の支持を受け、ルクゥ国王を弑逆。アルヒーナ王国を建国した。見聞録によれば、ミシアン王は誰よりも熱心にシャメルダ神に祈りを捧げていたとされている。
そこから、アルヒーナ王国は四百年近くも栄え続けていた。
文明が滅ぶような大戦争が起きたときも乗り越え、アルヒーナ王国は存続し続けている。
歴史的な物体に触れ、三人は歓喜に震えた。
四百年も前からの巻物が素晴らしい状態で残っていたのは、遺跡が崩れたことにより、洞窟が密閉されてしまったせいだろう。風も当たらず、日にも当たらなかったおかげで、劣化せずにすんだのだった。
彼らは他にも何かないか、カンテラの明かりをかざしながら、地を這うように探した。すると、五メートルも行かない場所で、山積みになった巻物が発見された。その数十四巻だった。先程の巻物と合わせて一五巻ある。そのいずれにも文字がびっしりと書かれていた。
「早く帰って、ルクゥ国文字の解読書を引かなければな!」
「ああ。そうすりゃ、詳しく分かるなぁ!」
仲間二人が浮かれる中、若葉はふと、何かに導かれるように出口の方を振り仰いだ。少し坂になっている暗い洞窟に、若葉は舞う何かを見つけた。
それは若葉には、キラキラと光る灰のように思えた。
明かりなど、カンテラしかないのに何故光って見えたのか。若葉は不思議に思って、近くへ寄った。すると、足先にカツンと何かが当たって、若葉はそれを拾い上げた。
「筆だ」
若葉は呟いて、不意に気が付いた。そこは、最初の巻物があった場所だった。まるで、誰かが、書き上げた巻物を持って、ここまで這いずってきたような――。
「三条――三条若葉!」
仲間に名を呼ばれて若葉は振り返った。
「今行くよ! 焔(エン)・陽空(ようすけ)!」
そして、喜びに満ちた表情で、仲間の元へと駆けて行った。