レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

「今ある表向きの歴史は調べても、自国、他国共に反対も何もなかろうが、隠された真実を暴こうとするのなら、容赦はしないだろう。いち学校の、いち学問など簡単に潰されてしまう」
「そうか……」

 複雑な表情で若葉は巻物を見つめた。その姿を、ハナシュ教授は真剣な瞳で見据える。そして、硬い声音で尋ねた。

「もしかしたら、危険がついて回るかも知れん。それでもやるかね? 三条若葉よ」

 若葉は唾を飲み込むと、すっとハナシュ教授を見据える。
 迷わず言い切った。

「やります。僕はこの巻物の著者の生き様に感銘を受けました。僕は、レテラ・ロ・ルシュアールの遺志を、夢を継ぎます」
「俺も、真実を記す仕事がしたい」

 陽空が若葉に続いた。
 ハナシュ教授は深く頷く。

「では、名前は何にするかね?」

 若葉と陽空はしばらく見合って、首を傾げる。何が良いかと唸る陽空の隣で、若葉が決意のある顔つきで提案した。

「竜王機関はどうでしょう?」
「竜王?」
「ほう……して、その意味は?」
「発見された巻物によれば、かつてドラゴンの頂点だったのはアジダハーカです。そのドラゴンを従える事ができたのは、三条紅説、ただ一人。僕は彼を――いいえ、彼らを称えたい。先祖だからというわけではありません。時代に翻弄されながら、人々のために生き、死んでいった彼らの意思も僕は継ぎたいのです」
「だから竜王?」

 陽空の問いに、若葉は静かに頷く。

「そして、この竜王機関の信念には、彼の――レテラ・ロ・ルシュアールの生き様を刻みたい。この機関の規約を作るのなら、それは国に従うことなく、自分の意思で、自分の目で見た真実を記すものです」
「良いな。それ」

 瞳を輝かせながら陽空が笑んだ。

「では、これから我らが行う活動名は〝竜王機関〟で良いな?」
「はい!」

 若葉と陽空は高らかに声を合わせた。
 その響きは、晴れた空に良く澄んだ。



 ―― ―― ――


『竜王の規律第一条より』

〝歴史(ことば)は生者のみが創り、死者は語らない〟

 歴史というのは勝者のみが創るものだ。
 敗戦国は勝戦国に歴史を塗り替えられることが数多にある。
 書物を作りかえらえ、汚名を着せられ、敗戦国の者は生きねばならない。
 良い事も、悪い事も、全てを上塗りにされる。
 どんなに良い行いをしても、勝者は悪意によって死者を貶す。
 では、誰が敗者の声を聞く?
 人はいつかは死に絶える。
 歴史が歴史になるまで待てば、報われる日も来るだろうか。
 どこかの学者が真実を見つけてくれるだろうか。
 だが、そんな保障はどこにもない。
 だから我々は記すのだ。
 国などに左右されない。本当の歴史を刻むのだ。
 我々は純粋な歴史学問の語り手になる。

            初代竜機長・三条若葉
                   焔陽空





             了。






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