レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
僕はドキドキと高鳴る鼓動を抑えながら、壁を押した。壁は半回転して開かれた。
その瞬間、僕が捉えたものは秘密に満ちた薄暗い部屋でもなければ、陽光を湛えた草原でもなかった。それは、光だ。白い、目が眩むほどの白い光が、僕の視界を覆った。
次いで、熱風が頬をかすめた。
脳みそと目がくらくらして、僕は足の力をなくして膝をついた。気分が悪い。
「……うっ!」
つんとした鼻を衝く悪臭が漂ってきて、僕は鼻を摘んだ。
「なんなんだ」
イラつきを吐き出すように呟くと、
「大丈夫?」
突然声をかけられて、振り仰いだ。心配そうに僕を覗き込んでいたのは、青年だった。ひょろりとしていて、かなりの細身。筋肉なんて全然ついてなさそうだ。おそらく僕と同じくらいの年齢だろう。分厚い眼鏡をかけていて、目がしぼんで見える。
(眼鏡なんて、高級品なのに)
何気なくそんなことが過ぎって、僕は彼を呆然と見ていた。
「大丈夫?」
彼はもう一度、今度は本気で心配したように尋ねた。
「あ、はい。大丈夫です」
僕は鼻を摘みながら、苦笑を浮かべて立ち上がった。
「あっ、臭いよね。大丈夫、もうすぐなくなるからさ。――ほら」
彼は軽快に言うと、僕の手を掴んで鼻から引き剥がした。
「ちょっと!」
(うわっ、しまった――!)
声を荒げた拍子に、鼻で息を吸い込んでしまう。でも、
「……あれ? 本当だ。臭くない」
「でしょ?」
彼は、屈託なく笑う。八重歯が唇の隙間から覗いて、人懐っこそうに見える。
「僕は、マル。愛称だけど、そう呼んでよ。君は?」
「僕は、レテラ。レテラ・ロ・ルシュアール。ルクゥ国からきました」
「あ~。っていうと、あれだ。あの、なんだっけ。え~と、魔竜撲滅計画の人だ?」
マルは考えるように言って、僕になげかけた。
「そうですね。まあ、僕は、付き添いっていうか……」
思わず口ごもってしまった。戦闘についていけなかった事を思い出す。
(僕だって、一応はその一員なんだよ)
踏ん切りをつけたはずの悔しさが、どっと込み上げてきた。魔竜をこの目で見て、皆の能力の観察もしてみたかったのに。
「そうだ、ちょっと見ていってよ!」
僕の気落ちが顔に出ていたのか、マルは声の調子を上げて両腕を広げた。
「見る?」
僕は改めて部屋の中を見回した。