レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
その日の夜。僕は、真新しい巻物にメモ帳のいくつかのメモを清書した。
実験の様子は、立ち会ったものをさらさらと書いて、会議の様子はかいつまんで書いた。全部書いたら、巻物に入りきらないから、しょうがない。
でも、紅説王と青説殿下から盗み聞いた話は書かなかった。
陽空や、燗海さん、あのアイシャさんですら、自国に一報は入れるだろう。それは、当然なことなのだ。
紅説王も青説殿下もそれは承知の上だろう。だから、会議で出た話や、参加が許可された実験の話は書いても良いのだと思う。
でも、盗み聞いた話となれば別だ。それは僕が知りたくて聞いた話で、誰かに報告したくて記したわけじゃない。僕が知っていれば、それで良いんだ。
バルト王から密偵の勅命が下ったわけでもないんだし。
ふと僕は筆を止めた。
もしもバルト王から密偵せよと命じられたら、僕はどうするんだろう。
僕の頭に、陽空、アイシャさん、燗海さん、紅説王、マル、青説殿下の顔が浮かんだ。
もしもそうなったとしたら、王もマルも困るだろうな。もしも殿下に見つかったら、かなりヤバイことになりそうだ。
投獄され、死刑台に乗せられる自分が浮かんで、僕はぶるっと身震いした。
(まあ、そんな命令はないだろう)
僕は引き攣った頬を戻して、
「よし……」
一息吐いて、文机に手を突いて立ち上がると、小さなドラゴンが入っている籠を開けた。そのドラゴンは伝使竜(ラグラーム)と言って、全長は約四十センチ。灰色で、岩のようにゴツゴツとした肌を持つ翼竜だ。
伝使竜の背には、巻物を入れられるホルダーを取り付けている。そのホルダーのボタンを外して僕は巻物を滑り込ませた。
伝使竜を籠から出し、続き部屋の障子を開けて縁側へ行くと、腕を軽く投げるようにして、腕に捕まっていた伝使竜を羽ばたかせた。
天高く飛んだ伝使竜を細い三日月が、淡く照らしていた。