レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
(また、あの咆哮か?)
全身に汗が噴出し、ガタガタと情けなく震えだす。
僕は力の入らない体を無理矢理動かして、ずるずると這いずった。
(いやだ……。怖い、怖い、怖い……。助けて!)
自分の体が、おそろしく重いものに感じる。
腕が体重を支えられずに、何度も血に染まった草原に顔面を打ち付けた。
ぬたっとした血が、滝のように僕の顎を流れ落ち、魔竜の血を何回か飲んだ。渇いた喉に金臭い液体が滑り気を帯びて流れ込む。
僕は目を袖で強く拭った。
赤く染まった視界が、ぼんやりと正常に戻る。僕は、後ろを振り返った。
魔竜が目に映った瞬間、心臓の早鐘は更に増した。
「はあ、はあ……」
不安や恐怖が胸の内側から、どんどんあふれ出してくる。
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ――死にたくない。
「ああ……」
僕が発狂しそうになったとき、
「ヴィギャア!」
突然魔竜は咆哮を上げた。
「ひっ!」
僕は思わず飛び上がって、強く目を瞑った。
「ヴィイ!」
「……?」
(あれ?)
咆哮は上がっているのに、さっきみたいに苦しくならない。
僕は、薄っすらと目を開けた。
魔竜は、三つ首をぶんぶんと振り回していた。
首が薙ぐたびに、風が吹きつけてくる。僕は目を細めた。
魔竜は苦しんでいるように見えた。
そうか。あれは、咆哮じゃなくて、叫び声だったんだ……。
魔竜は苦しそうに、低く、時に高く悲鳴を上げながら、じたばたと地団太を踏んだ。その度に振動が地面を伝って僕の全身を小さく振るわせる。
魔竜はやがて、ぴたりと動きを止めた。
(どうしたんだ?)
頭が真っ白になりながら、魔竜を凝視した。
魔竜は突如ぶるぶると震えだし、胸の中心に透明な何かが渦巻いたように見えた。その刹那、水面に映った魔竜に石を投げて消し去るように、魔竜は変な風に弾け飛んだ。
勢いよく魔竜の肉片と血が僕に向って垂直に飛んで来た。僕は瞬きをする間もなく、肉片を顔面にくらった。勢いよく倒れこんで、頭を強かに打つ。
「痛ってぇ……」
僕は呻いて、肉片を剥がした。
上半身を起こす。
よくよく見ると、肉片は六インチくらいある。これくらって、よく脳震盪起こさなかったな。
僕は、何気なく肉片を触った。
黒い皮の部分はごつごつし、ぬめりを帯びていて、かなり硬い。刃物は簡単には貫通しなさそうだ。でも、内側の肉片はやわらかかった。
ぶよぶよとしていて、脂身が多い。というか、多すぎるくらいだ。深海魚並みにあるんじゃないか。肉の色も薄いピンクが申し訳なさ程度にのっているくらいだ。
「そうか」