レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
王は、曇った表情のまま玉座についた。その手には、輝く魂の塊があった。でも光の反射がおかしい。ある一定の距離から内側に向って乱反射している。
魂の塊から、六インチくらいかな。
でも、不思議なことに目を細めるほどの眩しさはない。多分、結界がはってあるんだ。
王は僕らを見回して、にこりと笑った。
「今回のこと、皆ご苦労だったな」
王は僕らを労って、視線をマルに移した。
「円火」
「はい」
マルは快活に言って、立ち上がった。
前に出て、王から魂の塊を受け取ると、「皆、これを見て欲しい」と言った。
見るも何も、魂の塊第二弾じゃないか。
「見て分かるように、魔王には今結界が施されてる」
「魔王?」
僕が怪訝に尋ねると、マルは「ああ」と、調子の外れた声を出した。
「レテラと陽空とヒナタは知らないよね。君達が寝てる間にこれに名前がつけられたんだよ。名付け親は青説殿下」
マルは殿下を振り返った。
殿下は静かに目を瞑って、小さく顎を引いた。マルが歌うように言う。
「魔竜を倒す王なるものって意味で、魔王」
なるほど。
実に、殿下らしい。僕は妙に納得してしまった。
その実、諸外国に『これを造ったのは条国の王である。魔竜を滅ぼすのは条国だ』というアピールと、威厳を保つための名前だろう。
もちろん、マルが説明した意味も含まれてるんだろうけど。
それでね――と、マルは話を元に戻した。
「この結界は、二重にされているんだ」
「だから、乱反射してるの?」
僕の質問に、マルは小さく頷く。
「うん。結界がひとつだけだったら、普通に光を通すけど、二つ重ねると微妙におうとつが出来るからね」
マルは魔王を一瞥して、僅かに苦い顔をした。
「それで、どうして結界を張ったのかということなんだけど」
言い辛らそうにマルはもう一度魔王を一瞥して、僕らの誰を見るでもなく見た。
「絶魂の能力がね、止まらなくなっちゃったんだ」
「それって……」
呟いたのは陽空だった。
僕も同時にはっとして、陽空と目が合った。陽空は合点がいったように目を見開いていた。多分、僕も同じ顔をしてる。
「わしらがつがいの魔竜を倒した後に、何かに意識を奪われたのはそいつのせいというわけじゃな?」
「うん。そういうことになる」
マルは毅然と頷いた。
そして、不意に眉を八の字に曲げて、申し訳なさそうな顔つきになった。
「紅説様と燗海は別だけど、レテラたちは本当に危なかったんだよ」
「え?」