レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
僕らが研究室へ行くと、紅説王とマルがテーブルに向かい合って座り、う~んと唸っていた。今は確か、新たな術の開発中だったはずだ。結界が自動で張られ続ける自動結界を考えているらしい。
この二人は、術を考案し、形にしていくのが本当に好きなんだな。
僕がしみじみと二人を見ていると、急に火恋が僕の手を離して走り出した。
「こうとくさまぁ!」
火恋は紅説王の脚にひっつくと、紅説王は火恋を抱き上げた。
「やあ。火恋。よく来たな」
「うん!」
火恋は紅説王に頬ずりをした。
なんとも微笑ましい光景だ。これは是非とも取材したい。
「お二人はどういう御関係ですか? 火恋に用があるとは?」
目の端で、僕に向って焦るようにわたわたと手を動かす晃が見えた。彼女には図々しく映ったのかも知れない。でも、紅説王はこんなことでは怒らないし、僕の〝悪い癖〟もとっくに御存知だ。
紅説王は爽やかな笑みを浮かべて、「レテラは相変わらずだな」と言いながら、火恋を降ろした。
「火恋を呼んだのは他でもない。次期国王候補に上げようと思ってな」
「え!?」
仰天したのは他でもない、僕だ。
晃も当の本人である火恋も驚いてはいたけれど、マルはいたって冷静だった。その姿に多少なりとも違和感を覚える。まるで、最初から知ってたみたいだ。
「私もまだ現役だし、お前が女王になるのはまだまだ先の話だが、次期国王はお前だ。火恋。今後、帝王学などを学ぶと思うが、心してかかるようにな」
火恋は僅かな時間、呆然としていたが、やがて覚悟を決めたような、きりっとした表情へと変わった。
「――はい」
火恋の毅然とした返事を聞いて、紅説王は満足したようだった。王は破顔して、火恋の頭を撫でた。
火恋はにんまりと笑うと、マルを振り返った。
「おねえさま! わたし、がんばるね」
「うん。がんばれよ。火恋」
(お姉さま?)
僕はぽかんと口を開けた。
「え、ちょっと待って。二人って姉妹なの?」
「そうだよ。似てるだろ」