レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
マルはおどけたように言って、火恋と並んだ。
姉は分厚すぎる丸渕眼鏡の中に、小さくしぼんだ瞳を隠し、ショートヘアのぼさぼさ頭。一体何日風呂に入らなかったんだろうといういでたち。
一方で妹は、上等な着物をはおり、女の子らしくアクセサリーを身にまとい、ツインテールの黒い髪は、しなやかで、きちんと手入れがされているのが一目瞭然だ。そして何より、くりっとした瞳と長いまつげが、将来美女になるであろうことを告げている。
僕は思わず突っ込んだ。
「いや。似てねーよ」
僕のツッコミを不快ともせずに、マルはけたけたと笑った。
「だろ? 似てないんだ。面白いだろ。同じ両親なのにさ。調べてみたいよな」
同意を求めるように言って、くすくすと笑う。マルにかかれば、なんでも研究対象だ。そういうところは、なんだかシンパシーを感じてしまう。
「そんなことないもん! おねえさまは自分がわかってないだけよ!」
火恋は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「おねえさま、かがんで!」
地団太踏んで火恋はマルに命令した。マルはやれやれといった感じでかがむ。
「なんだよぅ。火恋」
ぶつくさ言ったマルの眼鏡を、火恋は勢いよく剥ぎ取った。
「ほら、あのしつれいきわまりないオトコに見せてやってください!」
火恋は胸を張りながら、僕を指差した。
「失礼極まりないって、事実だと思うけどなぁ。姉ちゃんは」
マルはぶつぶつ言いながら、僕に向って振向いた。
「え、嘘だろ」
僕は絶句した。
マルは、火恋にそっくりだった。
ネコのように真ん丸な瞳。長いまつげ。実年齢よりも、だいぶ若く見える。まだ少女のような容姿だ。……眼鏡って恐ろしいな。
「そっくりだよ。マル」
「また。そんなこと言って」
マルは冗談だと思ったのか、呆れた表情をした後、くすっと笑った。
「まあ、似てるとか似てないとか、美人とかブスとか、僕にとってはどうでも良いよ。僕は、実験が出来ればそれで良いからね」
マルはきっぱりと言って、眼鏡をかけた。さっきまでそこにいた美人は、跡形もなく消えてしまった。
「もったいない……」
惜しんだ声は、多分誰にも聞こえなかったと思う。