レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
目を開いたとき、僕は一瞬混乱した。
一見、見慣れた風景の中に火恋が立っていたからだ。
部屋の作りが、僕の条国での部屋とそっくりだと思ったんだ。でも、見回してみるとまったく違うことに気がついた。
欄間は鶴と松の木の彫刻だし、書院障子は丸窓になっていた。僕の部屋には、丸窓はなかったし、書院障子の障子は桟が複雑に組み合い、大きな楓の木の形になっていた。欄間は鷹と山が彫られている。
違う部屋だと確信した途端、また一気に緊張が走った。
「おにいちゃん。ようこそ」
火恋は小さな手で、僕の指を握った。
「あ、ああ」
声が少し裏返ってしまう。
「晃は?」
僕の問いに、火恋はにんまりと笑った。八重歯がむき出しになる。
「晃なら今来るよ。おめかししてるの」
「おめかし?」
「そう」
にやりと火恋は含んだように笑う。するとそこに、
「火恋様。わたし、やっぱり……」
と、障子越しに声がした。
僕は思わず、びくっと跳びはねた。
「もう。いまさらなにいってるの?」
火恋は腰に手をやって、頬を膨らませた。怒ってる素振りを見せながら、障子を勢い良く開けた。
「きゃっ」
小さく悲鳴が上がって、僕は息を呑んだ。
晃は髪をまとめ、前髪を片側からたらして藤の簪を挿していた。髪にかかる紫色が、晃の赤茶の瞳に映える。白い着物には大きな黒い色の牡丹の花の刺繍が施されていて、黒と白のコントラストが美しかった。でも、そんな着物よりも更にきれいだったのは、言うまでもない――晃だ。
唇に薄くひかれた紅の色。長いまつげから覘く、赤希石のような瞳。ほんのりとピンクに色づいた頬。
「こ、こんにちは。レテラ」
「あ、うん。……こんにちは」
ぎこちなく笑う晃も、また素敵だ。
「えっと……」
晃はためらうように言葉を濁して、視線を泳がせた。
(どうしたんだ?)
僕が首を傾げたとき、晃は火恋にすがりつくように言った。