レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「やっぱり、こんなかっこうは無理です。わたしには全然似合いません! 着替えてきてもよろしいですか?」
「なに言ってるの? すごく良くにあってるわよ! ねえ。おにい――」
「そうだよ!」
火恋が同意を求め終わるよりも早く僕は答えていた。
晃が似合わないなんて、そんなことあるはずがない。すごく、きれいなのに! そう、言おうとしたけど、喉に詰まって出ない。頬が熱い。僕は頬をぎゅっと擦った。
「……そう、ですか」
晃はぼそっと呟いて、僕を見てにこっと笑った。
「ありがとう」
「いや……本当のことだし」
僕は顔を伏せて、頭を掻いた。
(うう……。情けない)
僕の顔は今絶対に真っ赤だろう。
二十五歳にもなって、なにやってるんだろう。こんな時、陽空だったらもっとスマートにやってのけるんだろうな……。
僕は生まれて初めて、陽空が羨ましいと思った。
しばらく沈黙が流れて、火恋の小さなため息が聞こえた。
顔を上げると、火恋はやれやれといった感じで首を振っている。
そして、突然何か閃いたような表情をした。
「ねえ、おにいちゃん。わたし、オウスの街へいきたいな!」
「あ、うん。そっか、じゃあ、行こうか。僕も見てみたかったし」
ちらりと晃を窺うと、晃はうんと頷いた。
「では、仕度を致しますね」
「ひ、晃も来るんだよな?」
「はい。侍女ですから」
晃はどことなく嬉しそうに笑んで、部屋を出て行った。
「まったく!」
避難がましい声に振向くと、火恋が腰に手を当てて睨んでいた。
「なんだよ?」
「なんだよぉ!?」
素っ頓狂な声音を出して、火恋は僕に向って指差した。
「デートって、だんせいからさそうものだって、ママが言ってたわ!」
「うっ!」
痛いとこつくなよなぁ。
「ぼ、僕だって誘おうとは思ってたよ」
「いいわけしなーい!」
「うっ……」
「ママがいいわけは良くないことって言ってたわ!」
「……はい。すいません」
僕は頭を下げた。
六歳児に気を使われ、説教されるなんて、僕の恋愛偏差値は六歳児以下か……。
「情けないなぁ」
がっくりと項垂れた僕の脚を、火恋がぽんぽんと叩いて慰めてくれた。
「ファイト。おにいちゃん」
「うん。がんばるよ」
火恋と硬い握手を交わしたところで、障子に人影が映った。丁寧に障子が開かれると、晃が二人分の羽織を片腕に下げて現れた。
心臓がどきっと跳ね上がる。