レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

「うん。特に変わりはないかな。火恋様は手がかからないし、優秀な方だから」
「そうなんだ」

 確かに、六歳児にしてはしっかりしてる。僕のフォローまでしてくれたからな。ませてるって言い方も出来るけど。

「でも、我慢強い方だから、あまり御両親に甘えようとなされらないのよね」
 心配そうに晃は顔を曇らせた。

「御両親はご多忙な方々だから、あまり火恋様を構われないのよ。奥方様の悠南様と御会いするのも、一週間に三日くらいなものだし」
「そっか。でも、それって結構普通なことじゃないか?」
「え?」
 晃はきょとんとした表情をした。

「貴族だって、召使である乳母にまかせっきりとか結構あるよ。王族ともなれば、その頻度も増えるんじゃないか? ましてや悠南さんは仕事してるしな。一週間に三日娘と過ごすって、結構頑張ってる方だと思うけど」
「そうなのかな……」

 晃の表情は晴れずに、もっと曇ってしまった。どうしよう。余計なこと言ったかな。でも、事実だしなぁ。

「レテラもそうだったの?」
「僕?」
 僕は記憶を辿った。

「うん。僕も乳母に育てられたみたいなもんだな。母は家にいたけど、母親らしいことは乳母が全部やってくれたよ」
「寂しくないの?」
 晃は悲しそうに眉尻を下げた。

「特に感じなかったな。子供の頃は寂しかったのかも知れないけど、覚えてないよ。それに、僕は夢中になれるものがあったからね。乳母である侍女も優しかったし、僕は彼女のこと愛してたから」
「そっか……」
 晃は複雑そうに瞳を伏せた。

「今も乳母の女性はレテラの御実家にいるの?」
「今は辞めていないよ。僕が成人の十六歳になったときに、結婚して辞めたんだ」
「そうなんだ。ルクゥ国では、乳母の結婚って普通なの?」
「普通だよ。条国は違うの?」

「うん。侍女は結婚する人もいるけど、乳母はそのまま結婚しないで過ごす人が一般的なの」
「そうなんだ」
「わたしも、多分そうなるんだろうな……」

 晃の瞳が寂しげに光った。
 唐突に、ショックが僕を襲った。そうか、火恋様が生まれてから、ずっと御世話してるって、それって、乳母ってことなんだよな。

「それでも、全然平気だったんだけどな」
 ぽつりと晃が零した。
「どうして?」
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